新潟大学 名誉教授 岡田 正彦 氏 ワクチン訴訟に思うこと

嘘(うそ)と真(まこと)を見わけるのは、なかなか難しいものです。たとえば政治家や有名人のパワハラ、セクハラ疑惑では、一方的に悪者が仕立て上げられ、面白おかしく報じられます。しかし私自身の経験も踏まえて言えば、どちらが正しいのかは当事者同士にしかわからないことが多いものです。

有名人のゴシップであれば、興味本位で語ることができても、健康についての問題となると、他人事ではなくなります。1970年代の後半、医療統計学の著しい進歩があり、薬や検査、手術などが本当に有効で無害なのかを大規模に追跡し、行く末を見届けるという研究スタイルが確立し、あらゆる医療行為がその洗礼を受けるようになりました。

この流れを受けて、1990年代の初め、カナダの医師によって「科学的根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine)」という概念が提唱されました。それまでの医療は、一人一人の医師の経験と勘?に頼るしかありませんでしたから、まさに医療が大転換期を迎えたのでした。いまでは「エビデンス」が真実を意味する言葉として用いられるようになり、流行語になっているのはご存じのとおりです。しかし、ここに落とし穴がありました。

ある新薬を服用した青少年たちに、自殺者あるいは自殺未遂が多発していたにもかかわらず、その事実を製薬企業が隠蔽していたという騒動が米国でありました。被害に遭った子供の親が企業を訴えるなどの騒ぎになり、ついにはニューヨーク州の司法長官が企業を告発するという事態にまで発展しました。この薬については、五つの学術調査が行われていましたが、製薬企業に不利となるデータが隠蔽され、都合のよいデータだけがエビデンスとして発表されていたことが裁判で暴露されたのです。

実はこのような事例は枚挙にいとまがなく、義憤にかられた私は、世界の製薬企業が発表するデータに隠されたウソを統計学的手法で浮き彫りにするという研究を、いつしかライフワークにしていました。

新型コロナウイルスのワクチンも例外ではありませんでした。裁判を通して嘘と真が明らかになることを心から願う一人として、皆様にエールを送るしだいです。

岡田正彦

愛を分かち合いましょう